What is Passatina? | パッシーナとは?リグーリアの伝統的な豆とパスタの温かい料理
イタリア料理と聞いて、何を思い浮かべますか? ピザ、パスタ、ジェラート…世界中で愛される料理は数多くありますが、イタリアにはまだまだ知られざる、地域に根ざした素晴らしい伝統料理が豊富に存在します。今回ご紹介するのは、特に北イタリア、リグーリア州の家庭で古くから親しまれてきた、素朴でありながらも深い味わいを持つ「パッシーナ」という料理です。この名前を聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれません。パッシーナとは一体どのような料理なのでしょうか? なぜリグーリアの人々に愛され続けているのでしょうか? その魅力に迫ります。
パッシーナは、簡単に言えば「豆とパスタのスープ」または「豆とパスタの煮込み」のような料理です。しかし、単なる豆スープやパスタスープとは一線を画す、独特のテクスチャーと風味があります。その最大の特徴は、主役となる豆が一部潰されたり、ピュレ状にされたりして使われる点にあります。これにより、スープ全体にとろみが生まれ、パスタと絡みやすくなり、濃厚な味わいが生まれます。リグーリア地方の質素ながらも豊かな食材を活かしたこの料理は、特に寒い季節に体を芯から温めてくれる、まさにソウルフードと言えるでしょう。
この記事では、パッシーナの歴史的背景から、主要な材料、典型的な調理法、地域によるバリエーション、栄養価、そしてリグーリアの食文化における位置づけまで、多角的に掘り下げていきます。この機会に、イタリアの隠れた名物、パッシーナの魅力に触れてみてください。
パッシーナとは? その基本
パッシーナ(Passatina)という名前は、イタリア語で「通り過ぎた」あるいは「ふるいにかけた」といった意味合いを持ちます。これは、豆を煮込んだ後に一部または全部を漉したり、潰したりして滑らかにする調理法に由来していると考えられます。地域によっては「パスタ・エ・ファジョーリ(Pasta e Fagioli - パスタと豆)」の一種と見なされることもありますが、パッシーナは特に豆のとろみや滑らかさに重点が置かれている点で区別されます。リグーリア州の中でも、特にジェノヴァ周辺や内陸部で古くから食べられてきたリグーリアの伝統料理の一つです。
この料理の核となるのは、良質な豆と乾燥パスタです。使用される豆は、ボルロッティ豆(うずら豆)やカネッリーニ豆(白いんげん豆)が一般的ですが、レンズ豆やひよこ豆、あるいはこれらの混合を使う地域や家庭もあります。乾燥豆を一晩水に浸けて戻し、柔らかくなるまでじっくり煮込むことから調理は始まります。パスタは、スープや煮込みに適した小ぶりの形状、例えばディタリーニ(筒状の短いパスタ)、ミスタ(様々な形のショートパスタのミックス)、あるいは割ったスパゲッティなどが使われます。
基本の味付けは非常にシンプルです。タマネギ、セロリ、ニンジンなどの香味野菜(ソフリット)をオリーブオイルで炒め、そこに煮込んだ豆と豆の煮汁、または野菜ブロスなどを加えます。この段階で、煮込んだ豆の一部を取り出して潰したり、ブレンダーでピュレ状にしたりして鍋に戻し入れます。これにより、スープ全体に自然なとろみがつき、深いコクが生まれるのです。パスタは、このとろみのあるスープの中で直接煮込みます。パスタが煮えるにつれて水分を吸い、スープはさらに濃厚になります。仕上げに、風味豊かなエキストラバージンオリーブオイルをたっぷり回しかけるのがリグーリア流です。
肉は通常使いませんが、家庭によってはパンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)やハムの骨などをソフリットを炒める際に加えて風味を出すこともあります。しかし、パッシーナの本来の姿は、豆の旨味と野菜の甘み、そして上質なオリーブオイルの香りを最大限に活かした、滋味深い一品です。これは、過去の貧しい時代において、入手しやすい豆を主要な栄養源として活用し、家族を満腹させるための知恵から生まれた料理でもあります。それゆえに、飾り気はありませんが、食べる人の心と体を温める、真の意味でのコンフォートフード(Comfort Food)と言えるでしょう。
パッシーナが多くのイタリア料理のガイドブックやレストランで頻繁に紹介されないのは、おそらくその素朴すぎる見た目や、非常に家庭的な料理であるという性質によるものかもしれません。しかし、リグーリアを訪れた際には、トラットリアやアグリツーリズモなどで、この本格的なパッシーナをぜひ味わってみる価値があります。現地の新鮮な食材と長年培われた調理法によって作られるパッシーナは、格別の美味しさです。

パッシーナの歴史と背景:質素な食材が生んだ知恵の味
パッシーナの起源は、リグーリア州の特に内陸部の農村地域や山間部に深く根ざしています。海岸部が貿易や漁業で栄えたのに対し、内陸部は農業や畜産業が中心であり、人々の暮らしはより質素でした。そのような環境で重要視されたのは、保存がきき、栄養価が高く、比較的安価な食材です。豆類はまさにそのような食材の代表であり、リグーリアだけでなくイタリア全土の農村部で、肉の貴重な代替品として重要な役割を果たしてきました。
歴史的に見て、パッシーナのような豆と穀物を組み合わせた料理は、地中海沿岸の多くの地域で見られます。これは、異なる食材を組み合わせることで、アミノ酸を補完し合い、タンパク質の栄養価を高めるという、経験に基づいた知恵の現れです。リグーリアでは、地元で収穫される豆と、保存のきく乾燥パスタが組み合わされました。家庭菜園で採れる野菜や、森で採れるハーブも加えられ、季節に応じたバリエーションが生まれました。
特に、冬の寒い時期には、体を温める高カロリーで消化の良い食事が求められました。豆を長時間煮込んで柔らかくし、一部を潰すことでとろみをつけたパッシーナは、小さな子供から高齢者までが食べやすく、しかも少量で満足感を得られる理想的な料理でした。薪ストーブの上でコトコトと長時間煮込まれるパッシーナは、家庭の暖かさそのものを象徴するような存在だったと言えるでしょう。
また、リグーリア州は山が多く、平地に乏しい地形です。かつて交通が不便だった時代には、それぞれの谷や集落で独自の料理や方言が発達しました。パッシーナも例外ではなく、使われる豆の種類、パスタの形状、野菜の組み合わせ、そして豆を潰す度合いなどに、地域や家庭ごとの細かな違いが見られます。ある家庭ではカネッリーニ豆だけを使う、別の家庭ではボルロッティ豆と混ぜる、パスタはディタリーニでなくテスタロリ(リグーリアのクレープ状パスタ)をちぎって入れる、といった具合です。これらの違いが、パッシーナを単一のレシピではなく、多様なバリエーションを持つイタリアの伝統料理のカテゴリーたらしめています。
現代においても、リグーリアの家庭ではパッシーナは受け継がれています。もちろん、乾燥豆ではなく缶詰や冷凍の豆を使ったり、圧力鍋を活用したりと、調理法は時代と共に変化していますが、豆を煮てパスタと合わせ、上質なオリーブオイルで仕上げるという核となる部分は変わりません。ファストフードや加工食品が増える現代において、このような手間ひまかけて作られる伝統料理は、家族の絆を深め、地域の文化を次世代に伝える重要な役割を果たしています。
パッシーナの歴史は、リグーリアの人々の知恵、質素さの中に見出す豊かさ、そして厳しい自然環境の中で生き抜いてきたたくましさを物語っています。一皿のパッシーナには、単なる味覚だけでなく、長い歴史の中で育まれた人々の暮らしと文化が凝縮されているのです。

パッシーナの主要材料とバリエーション:シンプルさの中の奥深さ
パッシーナはシンプルイズベストを体現する料理ですが、そのシンプルさの中には、材料の選び方や組み合わせ方による奥深さがあります。ここでは、パッシーナに欠かせない主要な材料と、地域や家庭で見られる代表的なバリエーションについて掘り下げてみましょう。
核となる材料
- 豆(Fagioli): パッシーナの主役です。最も一般的に使われるのは、クリーミーな食感とマイルドな風味を持つカネッリーニ豆(白いんげん豆)や、甘みがありホクホクとした食感のボルロッティ豆(うずら豆)です。これらの乾燥豆を一晩水に浸し、柔らかくなるまでじっくりと煮て使います。乾燥豆から煮ることで、豆本来の風味が最大限に引き出され、煮汁にも旨味が溶け出します。もちろん、手軽さから缶詰やパックの豆を使う家庭もありますが、伝統的なパッシーナを目指すなら乾燥豆から始めるのがおすすめです。
- パスタ(Pasta): スープの中で煮込むため、小ぶりでスープをよく吸う形状が適しています。ディタリーニ(小さな筒)、ミスタ(色々なショートパスタの切れ端のミックス)、マッケロンチーニ(細いマカロニ)、ファルファッリーネ(小さな蝶の形)などが使われます。リグーリアの家庭では、余ったパスタの切れ端を混ぜて使うこともあり、これが「パスタ・ミスタ」という形状の元になったとも言われます。パスタはスープに加えた後、袋の表示時間よりも短めに、アルデンテより少し柔らかくなるまで煮るのが一般的です。煮すぎるととろみがつきすぎたり、パスタが崩れたりするので注意が必要です。
- 香味野菜(Soffritto): パッシーナの味の土台となるのが、タマネギ、セロリ、ニンジンを細かく刻んでオリーブオイルでじっくり炒めたソフリットです。これらを丁寧に炒めることで野菜の甘みと旨味が引き出され、料理全体に深みを与えます。ニンニクを加える家庭もあります。
- オリーブオイル(Olio d'oliva extra vergine): リグーリア州はイタリアでも有数のオリーブ産地であり、高品質なエキストラバージンオリーブオイルは料理に欠かせません。ソフリットを炒めるのはもちろん、仕上げにたっぷり回しかけることで、フレッシュな香りとフルーティーな風味が加わり、パッシーナの味がぐっと引き締まります。
- ブロス(Brodo): 豆を煮た際の煮汁を使うのが基本ですが、さらに風味を増すために野菜ブロスや、ごく少量ですが肉や魚のブロスを加える家庭もあります。
バリエーション
パッシーナのバリエーションは多岐にわたります。ここではいくつかの代表的なものをご紹介します。
- 使用する豆の種類: カネッリーニやボルロッティが主流ですが、レンズ豆(レンズ豆のパッシーナは特に美味しい)、ひよこ豆、ソラマメ(春の季節に)、さらには地元の固有種である黒いんげん豆などが使われることもあります。複数の豆をブレンドすることで、味や食感に複雑さが生まれます。
- 豆の処理方法: 豆の一部をフォークで潰すだけの簡単な方法から、鍋の中でマッシャーで潰す、ミキサーやブレンダーで滑らかにピュレにする、さらには一度漉し器にかけるなど、家庭によって様々です。豆の処理の仕方によって、パッシーナの最終的なテクスチャー(とろみの強さや滑らかさ)が大きく変わります。
- 野菜の追加: 基本のソフリット以外に、ジャガイモを加えてさらにとろみを出したり、カボチャで甘みと色合いを加えたり、ホウレンソウやキャベツ、エンダイブなどの葉物野菜を加えて栄養価を高めたりすることもあります。季節の野菜を取り入れることで、一年を通して楽しめる料理になります。
- 肉類・加工肉の風味付け: 伝統的には豆が主役ですが、よりコクを出すために、ソフリットを炒める際にパンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)やラルド(豚の背脂の塩漬け)の切れ端を加えたり、ハムの骨や豚の皮(コティカ)を豆と一緒に煮込んだりすることもあります。ただし、これらは必須ではなく、あくまで風味付けの役割です。
- ハーブとスパイス: ローズマリーやセージ、パセリはパッシーナによく合います。特にローズマリーは豆料理と相性が良く、煮込みの最初から加えたり、仕上げに刻んだものを散らしたりします。唐辛子を加えてピリ辛にすることもあります。
- パンやその他の炭水化物: パスタの代わりに、古くなったパンを加えて煮込んだり、リゾットのように米を使ったりする地域や家庭も存在します。
これらのバリエーションは、それぞれの家庭のレシピや、手に入る食材、そしてその時の気分によって生まれます。これがパッシーナの魅力の一つであり、一皿ごとに異なる個性を持つ理由でもあります。どのバリエーションにも共通するのは、豆の優しい甘みと旨味、そしてオリーブオイルの豊かな香りを楽しむという点です。まさに、イタリアの各地に息づく多様な食文化を象徴するような料理と言えるでしょう。

パッシーナの基本的な作り方:手間ひまが美味しさの鍵
パッシーナは、一見シンプルな料理ですが、美味しいパッシーナを作るにはいくつかのポイントと、少しの手間ひまが必要です。ここでは、乾燥豆を使った伝統的なパッシーナの基本的な作り方をご紹介します。
材料(目安)
- 乾燥ボルロッティ豆またはカネッリーニ豆: 250g
- 水: 豆を戻す用、煮込み用
- 小ぶりのショートパスタ(ディタリーニ、ミスタなど): 150g
- タマネギ: 1個
- ニンジン: 1本
- セロリ: 1本
- ニンニク: 1-2かけ (お好みで)
- ローズマリーまたはセージ: 1枝 (お好みで)
- エキストラバージンオリーブオイル: 大さじ4〜5
- 塩、黒胡椒: 適量
- ブロス(野菜ブロス、チキンブロスなど): 500ml〜1L (お好みで、または水でも可)
作り方
- 豆を戻す・煮る:
- 乾燥豆はボウルに入れ、豆の3倍程度のたっぷりの水に一晩(約8〜12時間)浸けて戻します。
- 戻した豆は一度水を捨て、新しい水と一緒に鍋に入れます。ローズマリーやセージの枝をここで加えても良いでしょう。
- 強火にかけて沸騰させ、アクを取りながら弱火にします。蓋をして、豆が十分に柔らかくなるまで1時間半〜2時間、またはそれ以上、じっくりと煮ます。圧力鍋を使えば時間を短縮できます。豆が煮えたら、煮汁ごと取っておきます。ハーブの枝は取り除きます。
- ソフリットを作る:
- タマネギ、ニンジン、セロリはみじん切りにします。ニンニクを使う場合はみじん切りにします。
- 厚手の鍋か深めのフライパンにエキストラバージンオリーブオイル大さじ3を熱し、タマネギを弱火でじっくりと透明になるまで炒めます。
- ニンジン、セロリ(、ニンニク)を加え、さらに5〜10分、野菜が柔らかくなるまで丁寧に炒めます。焦げ付かないように注意してください。
- 豆を加える・とろみをつける:
- 炒めたソフリットの鍋に、煮ておいた豆と煮汁を全て加えます。必要であれば、ここでブロスまたは水を足して全体の量を調整します。
- 木べらなどで豆の一部を鍋の側面に押し付けながら潰したり、鍋から豆の一部を取り出してボウルでマッシャーやフォークで潰したり、あるいはハンディブレンダーで鍋の中の1/3〜半量程度の豆を軽くピュレ状にしたりします。これにより、パッシーナ独特のとろみが生まれます。どの程度潰すかはお好みで調整してください。
- 全体をよく混ぜ、塩、黒胡椒で味を調えます。
- パスタを煮る:
- 豆のスープが沸騰している状態を保ち、パスタを加えます。
- パスタがくっつかないように時々混ぜながら、袋の表示時間よりも少し短めに(アルデンテよりやや柔らかくなるまで)煮込みます。パスタが水分を吸ってスープがとろとろになってきます。
- 味を見て、塩気が足りなければ調整します。水分が少なすぎる場合は、必要に応じて温かいブロスや水を足してください。
- 仕上げ:
- パスタが煮えたら火を止めます。
- 器にパッシーナを盛り付け、仕上げにエキストラバージンオリーブオイル(大さじ1〜2)をたっぷり回しかけます。
- お好みで、刻んだフレッシュパセリやローズマリーを散らしても美味しいです。すりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノチーズを添える家庭もありますが、伝統的なパッシーナではチーズは使わないことも多いです。
熱々のうちに、田舎風のパンと一緒にいただくのがおすすめです。パンをスープに浸しながら食べると、また格別の美味しさです。このパスタ・エ・ファジョーリに似たスタイルの料理は、時間が経つとパスタが水分を吸ってさらに濃厚になります。出来立ても美味しいですが、少し置いて味をなじませるのも良いでしょう。
このように、パッシーナは特別な技術を必要とする料理ではありませんが、豆をじっくり煮る時間や、野菜を丁寧に炒める工程など、素材の味を引き出すための「待つ時間」が美味しさの鍵となります。手間をかけた分だけ、心温まる滋味深い味わいが生まれるのです。

パッシーナの栄養価と健康効果:ヘルシーで満足感のある一皿
パッシーナは、その素朴な見た目とは裏腹に、非常に栄養価が高く、健康的なメリットに富んだ料理です。主な材料である豆とパスタ、そして野菜とオリーブオイルの組み合わせが、バランスの取れた食事を提供します。特に、現代人が不足しがちな栄養素を豊富に含んでおり、ヘルシーな食生活を送る上で有効な選択肢となり得ます。
豆類のパワー
パッシーナの主役である豆類は、「畑の肉」と呼ばれるほど栄養価が高い食材です。具体的には、以下のような栄養素が豊富に含まれています。
- 植物性タンパク質: 豆は良質な植物性タンパク質の優れた供給源です。肉類に比べて低脂肪でありながら、体を構成する上で重要なアミノ酸を含んでいます。パスタなどの穀物と一緒に摂ることで、タンパク質の栄養価がさらに高まります。
- 食物繊維: 豆類には水溶性および不溶性の食物繊維が豊富に含まれています。食物繊維は腸内環境を整え、便秘の予防・改善に役立ちます。また、血糖値の急激な上昇を抑えたり、コレステロール値を低下させたりする効果も期待できます。これにより、糖尿病や心血管疾患のリスク低減にも寄与する可能性があります。
- ビタミン・ミネラル: 豆類には、葉酸やビタミンB群、鉄分、カリウム、マグネシウム、亜鉛など、様々なビタミンやミネラルが含まれています。これらの栄養素は、エネルギー代謝、血液の健康、骨の健康、神経機能など、体の様々な機能維持に不可欠です。
- 抗酸化物質: 豆類、特に色の濃い豆にはポリフェノールなどの抗酸化物質が含まれており、体内の活性酸素を除去し、細胞の老化や様々な病気の予防に役立つと考えられています。
パスタと炭水化物
パッシーナに使用されるパスタは、主に炭水化物を提供し、活動のためのエネルギー源となります。全粒粉パスタを使えば、さらに食物繊維やミネラルを増やすことができます。豆類との組み合わせにより、単独で食べるよりも血糖値の上昇が緩やかになる効果も期待できます。
野菜とオリーブオイル
ソフリットに使われるタマネギ、ニンジン、セロリなどの香味野菜は、ビタミンやミネラル、食物繊維を提供します。これらの野菜をじっくり炒めることで、脂溶性のビタミン(ビタミンAなど)の吸収率も高まります。また、仕上げにたっぷりかけるエキストラバージンオリーブオイルは、健康的な不飽和脂肪酸(特にオレイン酸)や抗酸化物質が豊富です。心血管系の健康維持や抗炎症作用に効果があると言われています。
パッシーナが提供する健康メリット
- 満足感と腹持ちの良さ: 豆のタンパク質と食物繊維、そしてパスタの炭水化物により、少量でも満足感があり、腹持ちが良いです。これにより、間食を減らし、過食を防ぐ効果が期待できます。
- 血糖値コントロール: 豆の食物繊維が血糖値の上昇を穏やかにするため、食後の高血糖を避けたい方にも適しています。(ただし、糖尿病の方は医師や専門家にご相談ください)
- 心血管系の健康: 豆のコレステロール低下作用、食物繊維、カリウム、そしてオリーブオイルの健康的な脂肪酸が、心臓病や脳卒中のリスク低減に貢献する可能性があります。
- 消化器系の健康: 豊富な食物繊維が腸内環境を改善し、健康な消化をサポートします。
- 体重管理: 高タンパク質・高食物繊維でありながら、適切に作れば比較的低カロリーに抑えることも可能です。満腹感が得られやすいため、健康的な減量や体重維持にも役立ちます。
このように、パッシーナは単に美味しいだけでなく、栄養バランスに優れ、様々な健康効果が期待できる料理です。ベジタリアンの方にとっては、主要なタンパク質源として特に魅力的な選択肢となります。ただし、味付けに使う塩分量には注意が必要です。自宅で作る際には、塩分控えめを心がけ、ハーブやオリーブオイルで風味を補うのがおすすめです。この栄養のヒントを参考に、ヘルシーなパッシーナ作りを楽しんでみてください。

パッシーナと似た料理との比較:パスタ・エ・ファジョーリとの違いは?
パッシーナはしばしば「パスタ・エ・ファジョーリ」と比較されますが、両者には明確な違いがあります。また、他のイタリアのスープや煮込み料理とも異なる特徴を持っています。
パッシーナ vs パスタ・エ・ファジョーリ
「パスタ・エ・ファジョーリ(Pasta e Fagioli)」は、「パスタと豆」という意味で、イタリア全土に存在する非常にポピュラーな家庭料理です。地域によってそのバリエーションは驚くほど豊富で、サラサラしたスープ状のものから、かなりとろみのあるものまで様々です。
パッシーナは、このパスタ・エ・ファジョーリの一種と見なされることもありますが、特にリグーリア地方のパスタ・エ・ファジョーリは、豆を意図的に潰してスープにとろみをつける「パッシーナ」スタイルが多い傾向にあります。他の地域のパスタ・エ・ファジョーリでは、豆は潰さずにそのままの形で使われることが多いです。また、肉類(パンチェッタやコティカなど)を風味付けに使う頻度も、地域によって異なります。パッシーナは豆自体を主役とし、そのとろみと風味を活かすことに特化している点が特徴です。つまり、パッシーナはリグーリア地方における、豆を潰してとろみをつけたスタイルの「パスタ・エ・ファジョーリ」と言えるでしょう。
他のイタリアのスープ/煮込み料理との比較
- ミネストローネ(Minestrone): ミネストローネも具沢山の野菜スープで、パスタや米、豆などが加えられることがあります。しかし、ミネストローネの主な特徴は、多種類の野菜がゴロゴロと入っている点にあります。パッシーナのように豆を大量に潰して強いとろみをつけることは一般的ではありません。ミネストローネはより多様な野菜の食感と味を楽しむ料理と言えます。
- ズッパ・ディ・レグーミ(Zuppa di Legumi): 「豆のスープ」全般を指す言葉です。レンズ豆、ひよこ豆、ソラマメなど、様々な豆や穀物を組み合わせて作られます。パッシーナも広い意味ではズッパ・ディ・レグーミに含まれますが、パッシーナは特にリグーリアの伝統と、豆を潰してとろみをつける調理法に焦点が当たっています。
- リボリータ(Ribollita): トスカーナ地方の有名な料理で、豆とパンを使ったスープです。一度作って冷ましたものを「再び煮る(ribollire)」ことからこの名前がついています。古いパンを加えて煮込むことでとろみをつけますが、パッシーナのように豆を潰すことが必須というわけではありません。また、キャベツなどの葉物野菜がたっぷり入るのも特徴です。
このように、イタリアには豆を使った様々なスープや煮込み料理が存在しますが、パッシーナは特に「豆を潰して作る濃厚なとろみ」と「リグーリア地方の伝統」という点で独自のアイデンティティを持っています。これらの比較から、パッシーナがイタリアの多様な世界の味の中でも、独特の立ち位置を占めていることが分かります。

リグーリアの食文化におけるパッシーナの位置づけ
リグーリア州は、南北に細長く、海岸線と山々が隣り合う多様な地形を持っています。この地理的な特徴が、リグーリア独自の食文化を育んできました。海岸部では新鮮な魚介類やジェノベーゼペーストに使われるバジル、山間部や内陸部ではオリーブ、ハーブ、野菜、そして豆類が中心となります。パッシーナは、この内陸部の食文化を代表する料理の一つです。
リグーリア料理の特徴としてよく挙げられるのは、「クチーナ・ポーヴェラ(Cucina Povera)」、すなわち「貧しい料理」という概念です。これは、高価な肉や輸入食材に頼らず、地元で採れる素朴な食材を最大限に活かし、無駄なく使い切る知恵から生まれた料理スタイルを指します。パッシーナはまさにこのクチーナ・ポーヴェラを体現する料理です。
パッシーナがリグーリアの食卓に欠かせない存在である理由はいくつかあります。
- 手に入りやすい材料: 豆や乾燥パスタは保存がきき、比較的安価で手に入りやすい食材です。家庭菜園で育てた野菜や庭で摘んだハーブを使えば、さらに費用を抑えることができます。
- 栄養価の高さ: 豆を主とするパッシーナは、少ない材料でも十分な栄養を摂取できるため、かつては肉が貴重だった時代の重要な栄養源でした。
- 体を温める: 寒い冬の時期には、温かくてとろみのあるパッシーナは体を芯から温め、厳しい寒さを乗り切るためのエネルギーを与えてくれます。
- 満足感: 豆のタンパク質と食物繊維、パスタの炭水化物による満腹感は、肉料理に頼らずとも家族を満腹にさせることができました。
- 家族の絆: じっくり時間をかけて煮込まれるパッシーナは、家族が食卓を囲む中心となり、世代を超えて受け継がれる家庭の味として、家族の絆を深める役割を果たしてきました。
- 地域との結びつき: 地元で採れる豆や野菜を使うことで、その土地の味、その季節の味を楽しむことができます。これは、地域への愛着や感謝を育むことにも繋がります。
現代においては、パッシーナは単なる貧しい時代の名残ではなく、ヘルシー志向やスローフードが見直される中で、その価値が再認識されています。シンプルでありながらも滋味深く、地球にも体にも優しいこの料理は、現代の食卓においても十分に魅力的な選択肢となり得ます。リグーリアを訪れる機会があれば、ぜひ地元のトラットリアや家庭で、この伝統料理であるパッシーナを味わってみてください。リグーリアの人々の暮らしや歴史を感じられる、貴重な体験となるでしょう。
ジェノベーゼペーストのように国際的に有名ではありませんが、パッシーナはリグーリアの家庭の温かさ、質素さの中にある豊かさ、そして古くから受け継がれる知恵を象徴する、真のリグーリアの味なのです。

まとめ:リグーリアの隠れた宝、パッシーナを味わう
この記事では、イタリア北部リグーリア州の伝統的な豆とパスタの料理、「パッシーナ」について詳しく掘り下げてきました。パッシーナは、手に入りやすい豆と乾燥パスタを使い、じっくり煮込んで豆を潰してとろみをつけた、素朴ながらも深い味わいを持つ家庭料理です。
その歴史はリグーリアの内陸部の農村部に根ざしており、限られた食材の中で栄養を確保し、家族を満腹させるための知恵として生まれました。カネッリーニ豆やボルロッティ豆を使い、タマネギ、ニンジン、セロリのソフリットと合わせて煮込み、小ぶりのパスタを加えて仕上げるのが基本ですが、使う豆の種類や野菜、豆の潰し方など、地域や家庭によって様々なバリエーションが存在します。これらの違いが、パッシーナを多様性豊かなイタリアのパスタ料理たらしめています。
パッシーナの魅力は、その美味しさだけにとどまりません。豆類や野菜、良質なオリーブオイルから得られる植物性タンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれており、栄養バランスに優れ、ヘルシーな食事としても優れています。特に、腹持ちの良さや血糖値の上昇を穏やかにする効果は、健康志向の方々にとって非常に魅力的です。伝統的な世界の味でありながら、現代のライフスタイルにもフィットする栄養価を持っています。
パッシーナは、ジェノベーゼペーストやフォカッチャのように広く知られているリグーリア料理ではないかもしれません。しかし、この料理にはリグーリアの人々の歴史、知恵、そして大地への感謝の気持ちが詰まっています。家庭の食卓で家族と共に温かいパッシーナを囲む時間は、リグーリアの文化そのものを感じさせてくれます。
もしイタリア料理が好きで、まだパッシーナを味わったことがないのであれば、ぜひ一度挑戦してみてください。自宅で乾燥豆からじっくり作ってみるのも良いですし、リグーリアを旅する機会があれば、本場の味を探求するのも素晴らしい経験となるでしょう。手間ひまかけて作られたパッシーナの一皿は、きっとあなたの心と体を温め、イタリアの奥深い食文化への新たな扉を開いてくれるはずです。この栄養のヒントが詰まった、リグーリアの隠れた宝であるパッシーナを、ぜひあなたの食卓に取り入れてみてください。